あとがき

 

  ウェゲナーの大陸移動説から何を学ぶか。

 それは、二言で言えば、パラダイムの転換における科学認識のあり方か

もしれない。

 ウェゲナーの大陸移動説は、従来から綿々と築きあげられてきた地質学

の転換を迫った。ハットン(1728-1797やスミス(1744-1829)、ジュース

1831-1914)などが築きあげてきた従来の地質学に、ウェゲナーはまった

く違う次元から〈地球科学〉を追い求めた。ウェゲナーの〈大陸移動説から

プレートテクトニクス〉への道のりは、地質学における科学研究の哲学的な

検証そのものでもあった。ウェゲナーがこれだけの説を主張し続けられたの

は、ウェゲナーは地質学者でなかったことも幸いした。

〈真理は、権威や既成の学説に左右されることなく、自らの仮説にもとづく

《実験》によってのみ成立する〉ことを、〈大陸移動説〉を通して見せてくれ

た。仮説実験的認識論をとなえる板倉聖宣氏の言葉もかりて、真理を追い求

めるウェゲナーの認識論を浮かび上がらせてみた。

 この本のテーマ、ウェゲナ一大陸移動説の科学論は、私の生涯のテーマだ

った。まだまだ、研究半ばの感もなくはないが、ひとまずここにまとめるこ

とができた。

「科学、それは、大いなる空想をともなう仮説とともに生まれ、討論・実験

を経て、大衆のものとなって、はじめて真理となる」

「科学は、民主的な社会のみに生まれ、民主的な社会を守り育てる」

 これは、新潟県北魚沼郡湯ノ谷村(現・魚沼市)にある〈科学の碑〉に記

された文字である。ウェゲナーの大陸移動説は、まさしくこの碑文の言葉そ

のものだった。

 変化の激しい現代に生きる人間の創造的な生き方にも通じる。

 

 謝辞

 私のこの研究には、地質学的な資料や図書の検討、授業用の資料作成にかか

わって多くの方々にお世話になった。特に、国立国会図書館の方々、奈良大学

図書館の方々には、古い資料の検索にご尽力いただいた。

 また、私がいつも参加している仮説実験授業研究会では、板倉研究室での板

倉聖宣氏をはじめ、全国大会地球(天文・地球)分科会のみなさん、名古屋社

会の科学・科学読み物合同研究会のみなさんには、《地球のなぞとき》作成から

改定にかかわって、多くのご意見をいただいた。また、北海道の仮説実験授業

研究会の方々、盛岡仮説の会、福岡・浮朝たのしい授業サークルのみなさんに

は授業書の検討会も持っていただき、参考になるご意見を多くいただいた。

みなさんにお礼を申し上げる。

 また、先に紹介した授業書《地球のなぞとき》の授業を受けていただいた学

校や塾、かがく倶楽部の生徒さんたちからも、多くの感想をいただいた。授業

をしてくださった教員の方や感想を書いてくださった生徒さんたちにも感謝し

たい。

 この本の発行には文芸社の多くの方々にもご苦労いただき併せて感謝したい。

       

   201610                         西村寿雄